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が、この分野ではわが国は栽培漁業などに関する長年の研究成果の蓄積がありノルウェーにおける今後の技術開発に何らかの貢献ができるのではないかと思う。

4.2 フィヨルドなどの物質循環・収支および環境収容力に関する調査研究

MARICULTやPUSHのように、生態系の生物生産機能を効果的に利用しようとする研究プログラムを成功に導くためには、その基礎となる海洋生態系の物質循環や収支、さらにはその結果として決定される環境収容力などの実態について定量的な知見を得ることが必要である。すでに3章で紹介したように、ノルウェー西岸のフィヨルド海域ではAksnes教授を中心としたベルゲン大学のグループ、北部海域ではトロムソ大学のWassmann教授やノルウェー理工大学のSlagstad博士を中心としたグループにより、基礎生産を規定する要因や炭素循環の素過程、さらには食物網の構造や機能、総合的な指標としての環境収容力などについて、モデリングを含む生態系のダイナミクスに関する研究が精力的に展開されている。しかもそうした研究の大半は、魚類資源をはじめとする高次栄養段階の生態系変動までつながりを持っている。この点はノルウェーにおける生態系研究の特色の一つといえるのではないかと思う。3.11で紹介したノルウェーのGLOBEC研究計画でも中心的な課題として資源変動の機構解明ならびに予測モデルの開発が組み込まれている。
これまでの研究結果から、年々の風の場の変動やさらにグローバルな規模の海流系の変動に起因する沖合のノルウェー海流系水の流量などの変化が、栄養塩やプランクトンの輸送量の変化を通して直接的に、あるいは輸送する熱量の変化にともなう水温や海氷面積の変化を通して間接的に、生態系や物質循環を規定していることが指摘されている。また、沿岸のフィヨルド海域でも陸棚上をノルウェー西岸に沿って北上するノルウェー沿岸海流の動向が、沖合水との海水交換さらにはフィヨルド内の水質や餌生物の量を規定する主要な要因となっている。このように物理的な外力によって駆動されるきわめてダイナミックなシステムであることが大きな特徴といえよう。そのため物質循環や生態系変動の研究には各種のモデリング手法がうまく活用されている。そこでは生物研究者も一緒になってモデルを共通のツールとして普通に用いながら、フィールドではとらとえにくい変動現象の定量的な側面を解析・検証するとともに、そこからフィールドにおける重要な研究課題を探り当てることが繰り返し行われている。この点は、物質循環や生態系のモデルがもっぱら環境アセスメントのための現象の再現と予測に用いられているわが国の現状と大きな開きがあるように思う。

 

 

 

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